{フォワードストローク}

 まずはフォワードストロークです。
 基本は、上半身は余り大きく動かさずに全体のバランスをとり、腕は曲げて肘をしっかり締めます。感じとしては手綱を握って馬に跨ったときのような姿勢です(図-6参照)。
 この姿勢にはいくつか理由があるようです。
 まず、コクピットの直前に狩猟の道具を置く必要があったことから腕を伸ばす漕法は難しかったと思われます。
 また、スキンカヤックの場合、現在のカヤックと比べると概して安定性はよくありません。脚がほとんど伸ばしたままなのでカヤックを膝で支えるといったバランスの取り方はしにくい状態ですから、上半身を極端に動かすようなパドリングは得策ではありません。なにしろ海面には波というただでさえ面倒なシロモノがあって、油断すればすぐにでもカヤックをひっくり返そうと待ちかまえているのです。身体に近いところで構えるのはそういった意味もあると思われます。
 次に、ブレードの動かし方としてビデオでは二種類の漕法を見ることができます。
 ひとつは、基本の形を維持したまま伸ばしきらない程度に腕を前後し、バランスを崩さない程度に上半身のひねりを加えて漕ぐ方法です。支え手は胸より少し下ぐらいでしょうか。ストロークそのものは長くもなく短くもないようです。
 わたしは普段はこの漕ぎ方をしています。よけいな力も入らずのんびりと漕ぎ続けることができます。
 もうひとつはブレードを前傾させて漕ぐ方法です(図-7参照)。前出のビデオの中でマリギアックは、「それぞれの人がやりやすい角度で
良いけど、僕の爺ちゃんは40度ぐらいって言っていたよ」と語っていますので、前傾の度合いは適当といったところでしょうか。
 この漕ぎ方で注意が必要なのは支え手の運動方向です(図-8参照)。ブレードを前傾させると引き手側のブレードが水中に潜ろうとします。そこで支え手を肩先から膝に向かって押し下げます。引き手を支点にして、沈み込もうとするブレードを持ち上げてやるわけです。ここでも体幹はバランスをとることに中心を置き、とくに上半身はあまり大きく動かさない方がいいでしょう。
 ところで、この漕法のメカニズムについてですが、水をとらえてから体側までのストロークにおいてはフネを沈ませようとする力の分が推進力に変わり、体側から後ろまでのストロークにおいてはオリエンタルスカリングと同じ円弧の外側へ押す力が推進力に加わるので自然な角度のパドリングと比べて効率が良くなるようです。ただし、水中に潜ろうとするパドルを支える動きの分だけ余分な力とバランス感覚が必要になります。
 また、「水をとらえるときに飛沫が上がりにくくなる」という説もありますが、水面に自然にブレードを入れる場合でも、水面が後ろに流れる相対速度に、ブレードを引く速度が合っていれば飛沫はほとんど上がりません。もっとも、そうなるには慣れが必要ですから、角度を付けた方がより簡単ではあります。ちなみにジョン-ピーターセンは普段は角度を付けないで漕いでいます。
 スピードを上げる場合はどちらの漕ぎ方をするにせよ、腕全体がもう少し上がり前へ出されま す。これは現在の漕法でも同じことでしょう。

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