2001.2.22 ブレードを前傾させる漕法について

 ブレードを前傾させる漕法に関しては北米のトラディショナルスキンカヤック研究家ジョン・ヒースがかなり以前から注目していましたし、北米のシーカヤッカーが1990年にグリーンランドを訪問したときに学んできたという報告もあります。
 とくに1998年にジョン・ヒースが現グリーンランドカヤッキングチャンピオンのマリギアック・パディラと、北米を中心に講習して廻ったときに再び注目されたようです。
 そのためこの間いくつかのレポートがされていますが、わたしが実際にトラディショナルスキンカヤックに乗りながら検証してきたことをひとつの考察としてレポートさせていただきます。


 このパドリングの特徴は、パドリングの前半と後半では推進力を増す効果が変化する点にあります。
 まず、前傾によって生ずる引き手側のブレードの潜り込みを押さえることが重要です。
 とくに、水を捉えてから体側あたりまでは、潜り込みを押さえながら引くことで前斜め下方向にカヤックを水面に押しつけるような力が発生します。それでもカヤックは沈みませんからその分だけ余分に前へ進もうとする力に変わるわけです。これが第1のポイントです。
 次に、体側から後ろまでのブレードの動きはオリエンタルスカリング(櫓漕ぎ)の形を作っていまして、後ろへ水を押す力を発生させるのです。

 ちなみに、前傾パドリングにおいて、後半に推進力を増すポイントがあるという指摘は、すでに北米のシーカヤッカーによって行われていますので新発見というわけではありません。
 オリエンタルスカリングは通常カヤックで使うスカリングとブレードが逆の動きをします。カヤックの横で行うとパドルに寄るのではなく
フネを押して離れていく動きになり、斜め後ろにブレードを入れてオリエンタルスカリングをするとフネは前方に進むことになります。このときの、ブレードを引くときの形がちょうど前傾パドリングの後半の動きと一致しているのです。

 では実際にどの程度の効果があるかです。一昨年12月に最新のハンディGPSを購入した友人に協力してもらってブレードを垂直にしたときと前傾させたときで、その速度を比較してみました。
 全長230cm、最大幅8.5cmのグリーンランドパドルを、1分間に30ストロークというややゆっくりした漕ぎ方をして比較したところ、垂直ブレードの場合が時速5kmであったのに対し、前傾ブレードの場合は時速5.6kmとなりました。つまり時速で600mの差があるということでした。
 このときはツーリング途中だったので、繰り返したり条件を変えてデータを取ったわけでもなく、ちょっとした検証程度のことしかできませんでしたが、確かにブレードを前傾した方が速度は上がるようです。

 ただ、グリーンランドの人達のパドリングをビデオなどで観察しても、すべての人が前傾パドリングをしているわけではありません。
 かつてのカヤッキングチャンピオンは普段は垂直ブレードでパドリングをし、スピードを必要とするときに前傾ブレードでパドリングをするというように使い分けを行っていたようです。
 ところでグリーンランドの伝統的な猟の対象は海棲ほ乳類と海鳥と魚類です。猟の方法はいきなりカヤックで追いかけるのではなく、そっと接近するか待ち伏せしたということが様々な記録からわかります。つまり、猟そのもののスタイルからはカヤックのスピードはさほど重要な要素とは考えにくいのです。

 あくまで推測にすぎませんが、以上のことからこの前傾漕法は何らかの使い分け(例えば海況の突然の変化に襲われたときにバランスを崩さないために小さな動作でも大きな推進力を得るといった場合に前傾パドリングを使う)がされたのではないかと考えることができます。

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