{パドルの構造と使用}

 パドルについてもカヤックと同様細かい点に関しては専門的な資料がありますのでそちらを参照していただく方がいいでしょう。とくにグリーンランドタイプのパドルについては国内外のホームページに数値を含めて詳述されているものがあって大変参考になります(ただ、残念ながらシベリアからアラスカを経てカナダ北部に至る地域のパドルはあまりにも多種多様なためか、資料が非常に少ないのが現状のようです)。
 そこで、ここでもカヤックと同様わたし自身の経験を基に、グリーンランドタイプの(あるいはそれに近い細い)パドルの場合どう選択(製作)したらいいのかという視点から話を進めます。
 基本的な規格は、グリーンランドタイプのパドルの場合、長さはおおよそ160cmから230cm、幅はおおよそ9cm前後です。形は前後左右上下がほぼ対称形で、ブレードの中央部分は菱形に整形されることが多いようです。シャフトは楕円形のものや四角く整形したものなどがあります。
 最終的な寸法の決定は、使用するカヤックの性格と、それを操る人間の体格と技術及び体力などと密接に関係していると思われます。
 簡単に例示してみます。
 短めで回転性がいいカヤックの場合、さほど長いパドルでなくても操作は容易ですが、長めで直進性が勝っているカヤックの場合、操作性を考えるとどうしてもある程度の長さのパドルを使用せ
ざるをえません。
 カヤックの安定性の問題でいうと、不安定なカヤックほど長いパドルを使用した方が安心感は高くなります。水のとらえが強くなり、よりカヤックのバランスがとりやすくなるわけです。もちろん、回転性や安定性は操作する人間の能力や感じ方による部分がありますので、当然パドルの長さもそうした要素によっても変化します。
 次に人間側の条件ですが、大ざっぱに言えば、座高が高く腕が長くなるにつれてパドルは長くなります。また、ストロークごとの漕力を大きくしようとすればブレードのより長いパドルが必要になります。現代のパドルがブレードの面積をその広さで調節し漕力の大小に対応しているのに対して、グリーンランドパドルの場合は幅がある程度決まっているのでブレードの面積はその長さで調節するしかないわけです。
 この章の初めにも述べたように、パドルの寸法を決定するにあたっては、密接に関係し合ういくつかの要素と、さらに個人差や嗜好を加味しなければなりません。そのため全ての人に当てはまるような一律の基準などというものはないと考えた方がいいでしょう。実際現地で使用されているパドルの規格はかなり曖昧なようです。
 ところで、まったく個人的な見解ですが、わたし自身はグリーンランドパドルを好んで使い、製作もしていますが、他人に強く薦めることはしません。例えば、現代のパドルからグリーンランドタイプのパドルに切り替えたとき、独特のブレードのブレを感じることがあります。整流効果の少ないブレード形状からくる現象ですが、こうした慣れの必要な点がいくつかありますし、ロールやリカバリーも現代のパドルの方がやり易いからです。
 結局、トラディショナルな道具を使う喜びというのは、材料や製法の制限があった時代に人間の側が道具に対応した技術や能力を身につけたという、言ってみれば原点のようなものを仮想体験できるところにあるのではないかと思います。

次へ / 始めに戻るにはこのマドを閉じてください / またはこの画面でホームへ