2000.12.20 この2年を振り返って
グリーンランドタイプのトラディショナルスキンカヤックを造って乗り始めて2年と3ヶ月がたちました。
以前は天気予報を見て風が強かったり波が高いと持っていくことさえためらったのですが、やっとどんなときでも持っていくことができるようになりました。
でも、例えば他の人と出かけて万が一レスキューする必要が生じたりしたときに十分なことを行うといった自信はありません。まだまだ自分のことで精一杯です。
それにしても、何とか乗ることができそうだという自信が本当についてきたのはちょうど2年目を過ぎた今年の10月でした。まる2日をかけて延べ40キロを連続して漕いだのですが、とくに2日目は友人のサポートも得て刻々と変化する海況を漕ぎきることができました。この時以来、だいたいどんな海況でもスキンカヤックを持っていくことができるようになりました。
そこでこの間感じたこと、考えたことを少しまとめたいと思います。
まずカヤックについての認識の問題です。 ネイティブカヤッカーたちはカヤックを兄弟か自分の分身のように扱ったといわれています。そして、とくにグリーンランドのネイティブカヤッカーたちはカヤックを乗りやすく改良することを嫌ったふしがあります。 わたし自身、自分で造ったカヤックに乗り始めた頃は「どうしてこんな乗りにくいカヤックを造ってしまったんだろう」とずいぶん悩みました。しかし半分いやいやながらでも乗り続けているうちに少しは慣れ、慣れるにつれてカヤックへの理解と信頼が高まり、信頼が高まれば愛情も増し、さらに理解が深まるようになりました。 こうした試行錯誤の中で、ネイティブカヤッカーたちがどうして乗りやすく改良を加えてこなかったかが少しだけわかってきたような気がしています。 それは、乗りにくいと言うよりは非常に敏感なカヤックは自分の健康や精神状態を反映し、常に扱うための技術の完成度を問われるからなのです。つまり、カヤックは海上では唯一自分を守る道具であるわけですが、厳しい自然に対峙するとき、自らを律することの必要性から、あえて乗りやすくすることをして来なか |
ったのではないだろうかということなのです。 さて、グリーンランドタイプのトラディショナルスキンカヤックの持つ特徴は、こうした精神性といったものだけですべての説明がつくわけではありません。 |
が深く、しかもデッキが平らであることで少しでも波があるとカヤックは波間に隠れるようになります。実際、一緒にツーリングをしている仲間には海面にそのまま座っているように見えると言われます。 第二には聴覚的な問題です。フネは細ければ細いほど引き波が小さくなることが知られています。極限までボリュームを絞ったカヤックは実に静かに水面を進んで行きます。 また、波が一定度大きくなると、波を越えた直後、カヤックのバウが海面をたたいて大きな音をたてることがありますが、スキンカヤックのバウはほとんど音をたてずに着水します。 ちなみに鋭く尖ったバウは波によっては突き刺さりますが、素材そのものの持つ浮力と軽さがその細さと相まって、バウを波の中から浮かびやすくしています。 第三には耐風性の問題です。風の影響を受けにくいのです。 まず、停止した状態で風を横方向から受けたとき、一緒に近代的なカヤックがいるとその差は歴然とします。わたしのフネはかなり前後にそり上がっていますが、それでも意外なほど影響は受けにくいようです。 同様に、漕行中の風の中での方向転換も比較的容易であるように思われます。一般的にはカヤックのバウが風上を向こうとする現象があっ |
て、場合によっては方向転換がかなり厳しいときがあります。ところがスキンカヤックでは、全くないわけではありませんが、そういう傾向もかなり少ないようです。 以上この2年強でグリーンランドタイプのトラディショナルスキンカヤックから学んだことの一部です。 |
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