{日本人とトラディショナル・スキンカヤック}

 静かだ。風の音とパドルをつたい落ちる水の音しか聞こえない。僕のスキンカヤックは波間に船体を小刻みに震わせながら、海に溶け込むように進む。静寂と躍動が混然と流れる時間を与えてくれる。
 我々と同種の民族であるイヌイットの人々は、誕生した時に自分の歌を授かる。また、命の糧であるカヤックを作った時は、その歌をうたいカヤックに魂を吹き込むと言われている。極北の先住民・イヌイットに取ってカヤックは自分自身なのだ。それは命であり魂であり、存在そのものなのだ。
 はるか極北の地で生まれたカヤックは数千年の時空の海を航海し、今、我々の手許に届いた。トラディショナル・スキンカヤックの文化は我々モンゴリアンが築き上げた、地球から失ってはならない文明の1つなのだ。地球が存在する限り、後世へと継承しなくてはならないのだ。魂から魂へと受け継がれなくてはならないのだ。
 僕はその大切な役目が日本のシーカヤッカーにあるのではないかと思う。

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