{パドルの変遷}

 まず注意しなければならないのは、パドルとカヤックはセットであるということです。
 カヤックに、気候や生活様式・道具の使用目的の違いなどによって多様性が生じ、時代や地域による流行のようなものがあったのと同じことです。カヤックの持つ特性に応じたパドルがあると言い換えてもいいでしょう。
 例えば、ボリュームや全長のあるカヤックを効率的に動かすために長いダブルブレードパドルやシングルブレードパドルが使用されました。全長732cm・幅59cmの北ラブラドール地方のカヤックには3m20cmのダブルブレードパドルが使われ、全長4m56cm・幅76cmのヌニヴァク島のカヤックにはシングルブレードパドルが使われていました。また、風の強い東グリーンランドでは、短いダブルブレードパドルを左右にスライドさせながら使っていたという例もあります。
 概論的に言えば、3mを越えるものから40cm程度の大きめの羽子板のようなものまであります
(図-4はシベリアからアリュート・アラスカの、図-5はグリーンランドのパドルの一部です)。また、カヤックと言うと多くの場合ダブルブレードパドルを想起しますが、かなりの地域でシングルブレードパドルも使用されていました。形も時代と地域によって多くの種類があり、まるで現代のパドルとほとんど違わないようなワイドブレードパドルや、左右のブレードを捻って作ったフェザーパドルさえあったそうです。
 ところで、樹木がないかあるいは少なく、素材はほとんどが流木だったために細いブレードのパドルしか作ることができなかったという話しがあります。たしかに森林限界を超えた地域には材料になるような樹木はありませんが、かつては気候と海流の関係で多くの流木(それもくさびで割いて製材する必要があるぐらいの大木)が流れ着いたこともあったと言われていますので、木材が希少であったから細いパドルしかできなかったというわけではないようです。
 ちなみに、カヤックやパドルは身体の部位の寸法を元に作られるとよく言われていますが、あくまでそれぞれの地域に継承するためのなにがしかの基準があったということで、何か一定の原則があって全てが当てはまるようなものではないことは、言うまでもありません。

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