2001.2.26 洲澤さんからの手紙 その1「私的心象」

 わたしにとって、洲澤さんとの出会いは特別なものです。
 シーカヤックと出会い、様々なパドルを試した後グリーンランドパドルと出会い、そしてトラディショナルカヤックと出会いました。
 憧れでしかなかったトラディショナルスキンカヤックを自ら(本当は半分手伝ってもらって)作ることができて、その上乗ることまでできるようになってこうして生意気にHPまで作ってしまいました。
 それも、そもそもはビルダーである洲澤さんがいたからです。
 このHPを作ろうと考えた動機は、未だにまことしやかに語られるトラディショナルカヤックを巡る(わたし自身も洲澤さんに出会うまで抱いていたような)誤解を少しでも解くきっかけになればというものでしたが、多くの資料や知識はやはり洲澤さん経由のものです。それは何より、長年こつこつ資料を蒐集し、実際の製作や検証を通じて積み上げてきた実績を物語っています。
 先日2通のメールが洲澤さんから届きました。いずれも大変示唆に富む内容なので、ふたつともここに掲載させていただくことにしました。


 僕は現在、205cm位のブレード先端はドラエモンの手状のグリーンランド・パドルを使っています。初速をのせる時はスライスせずパドルを立てて漕ぎます。
 長い距離を漕ぐ時はスライスします。スライス時のブレードの、水への侵入角度は通常のパドルと同じです。そのまま素直にかかげ手を押し抜き、引手をたたむと、体側から後ろへ抜けるブレードはマリジアクの解説と同様の動きをします。引手をたたまず開いて引くと、通常のブレードと同じ動きをします。
 どちらがどうと言う程の考えはありません。そう言うパドリングの方法・理屈があると、捕らえています。

 ある程度の技量に達したパドラーにとって、単純なパドリングだけの動作を考える時、何が大切なのかは別の所にあるように思います。
 基本的な動作・理屈をマスターしたスラローマー・レーシング・ワイルド・フリースタイル・シーカヤッカーなどと練習を共にすると、パドリング・フォームの詳細はまちまちです。フォームは体型や好みによる所が大きいと思います。
 それぞれが違うフォームで漕いでいます。特にオリンピック競技などは、国によりかなり異なります。異なるフォームにも関わらず、早い選手は早いのです。上手い選手は上手いのです。
 ただし、早い選手・上手い選手に共通するフォームがあります。

 それは、大きなフォームで、確実に水を捕まえ、一番美味しい所を漕いでいるところです。
 パドリング技術において、僕が最も大切だと考えるのはカヤックのエンジンである僕、あるいは選手の肉体です。下腹部腹筋でしっかりと上体を支える事。首回りの筋肉で肩・後背筋を

しっかりと支える事。最大限有効な上体の捻転運動(トーソーローティション)を生み出す肉体を持つ事。あるいは、現在の僕の肉体を最大限有効に使う事です。まあ、その方法としてマリジアクの解説が、僕にとって有効なら、そう言う漕ぎ方をしてもいいなと思うし、肉体に不足があるなら、補う努力をするでしょう。

 自分の体にあった道具を使い、自分の体にあった漕ぎ方をする。望むなら、道具にあった、漕ぎ方にあった肉体を作ります。

 そしてもう一つ、これは最も根深く、根本の問題です。カヤックに対する僕の心です。
 できる限り、僕の人生は自由に使いたい。できる限り、僕を縛る事柄が少ない方がいい。錯覚でも構わないから、僕は自由を感じていたい。その一つの方法・手段として、僕はカヤックを選びました。

 もしカヤックが僕を縛るなら、いつでもカヤックを捨てる準備はあります。しかし、カヤックは僕を縛らないだろうし、縛られるとすれば、僕がカヤックを縛ってしまうのだろうと思います。

 感情だけでカヤックを漕いでもつまらない。理屈だけでカヤックを漕いでもつまらない。僕は、汲み尽くせない感情と、より多くの事実が欲しいと願います。

 スキンカヤックの1台目を作った時、海に漕ぎ出す喜びより、時空の海に漕ぎ出せた喜びの方が大きかったです。
 デイビッド・ジマリーも言ってますが、スキンカヤックは我々の心象に訴えかける乗り物ですね。
 つかみ所の無いメールですが、極私的心象風景です。
                洲澤 育範

次へ / 始めに戻るにはこのマドを閉じてください / またはこの画面でホームへ